教養としての決済 - 読書ログ

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教養としての決済を読んだ。

SWIFT社(国際銀行間通信協会: Society for Worldwide Interbank Financial Telecommunication)の元CEOゴットフリート・レイブラント著の原題「The Pay Off : How Changing the Way We Pay Changes Fverything」の日本語翻訳本。

新しいことを学べる書籍というより、決済・銀行の歴史、各国の慣習や文化を網羅的に、かつ端的にまとめてくれており、タイトルの「教養」がぴったりだと感じた書籍でした。

決済の将来

この本を読む前は、お金にまつわるものをデジタル化しスマホ1つでほぼ完結する未来を想像していた。OpenBankingのような思想で、各サービスに銀行間のお金の移動が埋め込まれ自動的に決済が完了している(ただし利用者が管理できる前提)。ビジネスを始めたい人は簡単に始められる世界感。大分その世界感に近い状況にはなっている(日本はまだまだという印象)。

デジタル化すればみんなうれしいと思い込んでいたが、本書を読んでそんなに単純なシステムではないということを知れた。

まず、銀行口座を持たずに現金で生活している人々もいて、デジタル化することで口座を持たない(持てない)人たちを排除してしまう恐れがある。 アメリカでは小切手が利用されていたり、ドイツ・オーストリアでは現金の使用率が高いらしい(おそらく日本も入ると思われる)。各国の歴史・文化によって作られた慣習があり、これを急に変えるのはとてつもなく難しい。「明日から主食はトルティーヤです」といわれても「白米食べさせろ!!」と言いたくなるのと似ているかもしれない。

デジタル化によって救われた人々もいる。途上国で経済的弱者とされている人たちが電子マネーで生活できたり、簡単に送金ができるサービスを利用して出稼ぎして得た給料を、即座に送金できるようになった。

デジタル化によって発生する運用コスト。安定運用のためにシステム利用時の手数料請求がかかせない。しかしここで文化の違いがでてくる。アメリカでは「pay-to-play(参加するために支払う)」という言葉があり『支払うことに手数料を課すことに抵抗がない』とのこと。一方ヨーロッパでは「決済は公共事業。低価格もしくは無料で利用できるべき」という考え方。手数料だけ取り出しても、仕組みの統一といったことは到底難しそう。

近い将来、銀行間決済が普及してより便利になると思う(少額の送金を電話番号やメールアドレスだけで送れる「ことら」が出てきましたし)。そして銀行の機能がフィンテック企業(Not銀行)サービスに隠れて銀行口座を意識しない状態になるように思う。 そのような将来を考えたとき、本書でもかるく問題提起されてたが、子どもたちにどのようにお金・決済を伝えるべきか私も親として考えたりする。

現金が財布に入っていれば、物理的にあとどのくらい残っておりどの程度使っても問題ないのかが分かる。これがデジタル化され、アプリに「残高: 12,000円」と表示された際、どの程度「残高の感覚」を持てるのか。私はすでに現金の体験をしてきている前提があるため、デジタルの残高であってもある程度の感覚をつかむことができる。はじめから現金なしで育った場合、デジタル表示で金銭感覚のようなものを養えるのか。

直近での私の考えは、デジタルでは養えないと思う。子どもには現金を意識的に持たせ「○○が買いたい」と思ったら親に言ってから、自分のお金を自分で支払って購入していいルールにしている。2年くらい続けてようやく「欲しいものを買うために貯める」「もったいないから買うのやめた」という感覚がでてきた。

「決済のデジタル化のメリット・デメリット」「子どもへお金の使い方を教える方法」あたりが個人的に強く印象に残ったため、とりとめないがまとめてみた。以下は雑なメモ。

読書メモ

あらゆる形態の決済—現金を含む—は、どんな価値の移転にもつきものの、三つの根本的な課題に取り組む必要がある。それはリスク、流動性、慣習である。

引用元ページ:38

現金は簡単で、匿名性が高く、即時性があり、それで完結するものである。

引用元ページ:47

現金を見ることなしに、子どもたちはどうやってお金について学ぶのだろうか?アプリ内購入や画面上の数字、ワンクリック決済によってお金に対する理解が育まれるとしたら、子どもたちはどんな影響があるだろうか?

引用元ページ:71

銀行は顧客を守るため、「犯罪対策」や「銀行が潰れてしまって顧客の預金が守れない」ことがないようにあらゆる規制で守られているが、フィンテックは銀行の仕組みを利用して運用するため、銀行に比べてとても制約が少ない環境で活動できる。

世界的に見て、決済の収益は過去十年間、年率6%で成長しており、すくなくともあと五年はこのペースが続くと予想されている。しかも、これはほかの金融サービスの二倍の成長率なのだ。また、決済は技術集約型の分野であり、規模の経済が莫大な利益をもたらしうる。

引用元ページ:253

Stripeが事業種別をしっかりチェックしている理由は、Stripeが「マスターマーチャント」として振るまう場合、アクワイアラは「高額の支払い取り消しをうむ顧客を排除」「手数料を高くする」をマスターマーチャントに対して要求しているためだった(引用元ページ:263)

Amazonの1Click決済は、浪費に適したものになっているがAmazonにこの問題を解決するインセンティブがないため対応はしないだろうという部分がおもしろい(引用元ページ:274)

イングランド銀行は、いわゆるCBESTフレームワークを開発し、インテリジェンス主導型のサイバーセキュリティテストを実施している。その一環としておこなわれている「レッドチーム」演習では、適格なIT企業—ときには改心したハッカーたちがスタッフとして参加している—にたいして、金融システムへの侵入を試みるという任務が与えられる。

引用元ページ:367

国際的な決済のほぼ半分でドルが使われている。貿易金融の決済でドルが使われる割合は、全取引の90%と圧倒的だ。いわば、ドルは英語と同じように世界標準の役割をになっているのである

引用元ページ:388

お金の移動にはリスクがともない流動性が必要になる。テクノロジーがどれだけ錬金術のごとき力を発揮しても、この二つの要素を魔法で消すことはできない。

引用元ページ:432

駄文

Kindleで本を読み、マーカーをひいてまとめたい部分を残すような読み方をしているが、マーカーのデータをexportするのが手間。引用制限があるため全部exportできない場合もあり、手作業でメモアプリに移している。なにかもっと効率的な運用方法がないか模索中。

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